HAMAKAZE jj: 第3章 子犬の育て方

2018年12月6日木曜日

第3章 子犬の育て方


 さてあなたは、自分のきたるべき8年なり、10年なりの猟の友人として、期待出来る犬の選択を終わったと仮定しよう。

 あなたがそれを認めようと、又認めまいと、この犬は多分あなたのこれからの生涯にとって大切なものになるだろう。何故ならば、狩猟において、彼と共に幾年かの楽しい思いを分かち合うのみならず、年が経つと共に、彼があなたにそうであるように、あなたは彼に非常な期待をかけるようになるに違いないからです。そして言葉に言い現せない友情を、自然にあなたの犬に持ってゆくようになるだろう。あなた達の関係が主人と犬という間柄の一つであるとしても、犬が成長した時には、この間柄は心の理解と、友情の一つとして円熟して来るだろう。



 最初の頃はあなたは教師であり彼は生徒であるかも知れないが、彼が経験を増してゆくと共に、あなたは彼から単に猟の上のみでなく、忍耐力、理解、献身や忠誠等を教えられる事だろう。我々が住んでいるこの忙しく複雑な社会にもとづいている精神的な衝撃や、疲労、そして騒がされた神経が、あなたの犬の友人の暖かい、揺るぎのない献身により、あなたを大変快く、楽しくさせるのだと言う事に気が付くだろう。あなたの若犬とスタートする場合、先々に何があるかを知り理解する事は大切な事です。あなたの犬の進歩が完成される時期迄の間を通じての完全なプログラムをあなたに差し上げるのが、この本の一つの目的でもあります。

 しばしば初めての犬の飼い主は、彼等の犬に対して計画されたプログラムを持たず、組織立った方法も持たずに、行きあたりばったりで失敗する事が多い。そして犬が進歩するにつれてしばしば即席的な方法で、不正確に問題が取り組まれる。若し、それをもしもプログラムと呼ぶ事が出来るならば、堅実さや一貫性を欠いた、それは、正に当て推量的な恐れ入った代物です。このような訓練の結果はただ単に犬を混乱させるのみではなく、非常に長時間を要し・且つ訓練者にとって不愉快な事であり、普通は満足出来ないようなものを作る事が多い。

 この本に書いてあるプログラムは、一貫して順序良く組み立てられたものであり、永年の間注意深く作り上げられ、多くの素晴らしい猟犬を成功裏に進歩させたものです。

 従ってあなたがこれを全部読んで、あなたが何時でもこの次には何を為そうとしているかそしてあなたの仔犬はプログラムの中のどこに該当しているのかを正確に知ることが出来るように、あなたの頭の中に全部のプログラムを樹立するようにお奨めしたい。

 出発に当たってあなたの若犬は人間の赤ん坊に似て、全く未発育の小さな心しか持っていないのだと言う事を頭に入れてほしい。若犬の心と赤ん坊の心とは、年毎に同じ進歩の過程を通ってゆくものだと私は信じている。例えば幼犬も赤ん坊も同じような多くの基本的な反応と反射を持っている。両者共気温の変化、空腹、怖れ、痛み等に反応し、彼等の精神が進歩するにつれ、これらの反応は更に複雑になって来る。

 赤ん坊は泣き、それは食物により酬いられる。そしてこの事は小さな心に、泣けば空腹を満たしてくれるのだという事を植えつける。仔犬達も同じようにする。間もなく子供達は泣く事は同時に自分に注意を向けさせる事を悟る。仔犬も又同様の事を見付けるのは事実だろう。彼等の優しい訓練に対する反応も又同様です。赤ん坊が進歩するにつれて、それは両親に対する信頼、依存と愛情に発展する。幼犬の場合はその生活の中心と発展の対象があなただという点だけで、皆同じです。子供の活動性と反応が増してゆくにつれて、母親はその態度や甘い言葉、返答、訓育、そして優しい罰等の形の中に訓練や管理の使用の必要性を見出すのです。

 あなたも、自身の仔犬に全く同様な事をしている事に気が付くだろう。この似たような事は、赤ん坊の場合、例えば歩行のような或る動作のきっかけを与えようという形で現れる。ここにおいても又あなたは同じような事をするだろう。即ち仔犬に猟をさせようとし、又、更に望ましい自然の本能を刺戟しようとする訳です。

 私がこの類似性を思い出したのは、それによりあなたが身近により良き理解をして欲しいからです。若しあなたが嘗て子供を育てた喜びを味わった事があるか、或は子供の心の進歩を目撃した事があるならば、あなたは若犬の心の進歩について基本的な見方を持って居る訳です。

 この事はあなたにとって如何に仔犬を扱うべきかという理解にとって大変な助けとなる。幼き者の心は完全にあなたの意のままです。それはあなたが鋳型にはめる通りに進んでゆき、それは粘土の柔かい一片のようなものです。何故なれば、あなたはそれを思うままの形に作る事が出来るからです。あなたは仔犬の進歩に反映するであろう所の全部の環境を自由に支配出来る立場にある。

 それを信じようと信じまいと、仔犬が成長した暁に、その個性の中にあなたの人格の或るものが反映するであろう。この考え方を心の中に入れて若犬の訓練に当たったならば、それは疑いもなく面白いものとなるだろう。何故ならば、あなたは最終結果については全部責任を持つからです。それはあなたが美しい油絵を描くようなものです。

 あなたが為し、或は為さなかったすべてがそこに在るのです。この見方に立って考えた時に、あなたの計画が完全に成功した時にうける誇らしさを思い画く事が出来るでしょう。

 数年の後に、あなたの犬が、殊に素晴らしい仕事をあなたの為に演じた時は、何時でも、彼がそのようになるように自分が作ったのだと言う事を知りつつ眺める事が出来る。

 仔犬を持った最初の第一週は、彼のこれからの訓練期間にとって非常に重要な週間です。若し出来るならば、仔犬を入手した最初の日に、彼の心の中に如何なるものがあったかを考えてみて下さい。

 彼の生涯のこの時期には、ほんの僅かな事しか知って居ない。彼の周囲は唯単に犬舎の内部以外にはなく、彼が知っているほんの僅かなものに対しては怖れを持っていない。何故ならば、それ等は彼にとって余り不思議なものではないからです。彼の交際は多分彼の小さな相手や、食事を与える為に来てくれる人だけに限られているだろう。彼は多分未だ首輪もした事もなければ、如何なる方法でも叱られた事はないだろう。

 彼は良く引き合いに出される「みどり児」という奴である。彼の生まれ家から連れて来る最初の日は非常に危険なものであり、彼のこれからの生涯において、彼の個性に劇的な影響を与える事が出来る。

 突然に彼は烈しい変化を受けます。新しい周囲、そして車に乗せられ、彼の仲間を失う。中でも一番の変化は全く新しい人間に直面する事です。つまり貴方です。幾つかの犬は素速くこの変化に順応出来るが、一方或る犬は大変難しい事がある。或ものは決して完全には順応しない。然しこの期間に仔犬を順応させるような良い結果を得る事は易しい事であり、又、訓練のプログラムにとりかかれようにするには左程日時を要しない事でしょう。

 それには首輪や紐やそんなようなものを、決して仔犬の首の回りにつけない事です。驚かせる事を避け、如何なるものにせよ高い音を聞かせてはいけない。輸送は出来る限り穏やかに行い、車に乗せるのだったら絶対に煙草を吸ってはいけない。この事は単に仔犬だけでなく、全てのシューティングドックにも当てはまる原則です。彼には新鮮な空気を味合わせ、乗車中むしろ他の犬と一緒に居させるか、或は彼と一緒に遊んであげると良い。

 彼の初めての自動車旅行について、そんなに詳しく立ち入る訳は、貴方のシューティングドックが良い旅行者になる事は大変重要な事であるからである。しばしば良い猟犬が、実際に小旅行に際し、車における悪いマナーの為に崩されているのを見ています。或る犬は車を一目見ただけで涎をたらし、気力を失ってしまうものもある。若し幼犬の最初の車旅行が楽しいものであったなら、貴方は多分何の心配もなく、仔犬は車を好むようになるでしょう。若し彼の初めての小旅行が、音や臭い、そして心細さと怖れの入り混じった奇妙な行動の悪夢であったならば、貴方の犬は多分何時も車の旅行を嫌うようになるでしょう。

 さて貴方が仔犬の名前を選んだならば、それを出来るだけ用い給え。又、その名前を食事時や、彼を連れ出す時、或は又、彼にとって何か楽しみになるような事があった時は何時でも使いましょう。彼の名前が楽しい事であると印象を持つように、彼を名前で呼ぶようにしましょう。私は何時でも食事と食事の間の時間に若犬を見にゆく場合は、一頭一頭名前を呼び乍ら、ドッグビスケットの一かけらを与えています。彼等が名前を呼ばれた場合は何時でも、私の所え飛んで来るようになるのはそんなに長くかからない。この時期には彼の名前だけ呼ぶようにしましょう。

 多くの新しい犬の所有者は、犬にとって、表も裏も全く解らない全く理解出来ない言葉を使って、犬を迷わせている。彼の訓練が進むにつれて、命令の言葉を徐々に増やしてゆきましょう。しかしそれは非常に用心深く行なわねばならない。この点に関しては後に更に説明する。

 名前を選ぶ場合、それを短く、然も一語のものを選ぶ。風の日に或る距離に離れていても聞こえる為に、一言で発するのに便利なようにすべきです。何んな名前でも、そんなに長くなく、短く鋭く発せられ、彼の訓練に後程用いられる如何なる言葉にも似ていてはいけない。「ジェイク」「デューク」「スポット」そして「テックス」等の名前は良いでしょう。

 彼が自分の家に馴れて間もなく(それは多分二、三日だろうが)ジステンパーと肝炎の予防注射を受ける為に獣医師の処に連れて行き給え。そして貴方の獣医師とジステンパーについて良く相談する事です。ジステンパーを防ぐには種々の方法があり、或るものは明らかに他のものより効果があります。私は犬舎内の全ての犬達の為に毎年秋にジステンパーの予防注射を行っています。

 貴方は獣医師にこの処置の良否を相談してみるとよい。そして又あなたの犬を六ケ月毎に寄生虫の検査を獣医師に受けるようお奨めします。

 彼の最初の一週間は、彼にとって出来るだけ楽しいものにさせなければならない。そして貴方の可能な限り仔犬の為に時間を割いてやり、変った犬や、高い音、しつこい子供達、滑り易い床、興奮させたり、心細くさせたりするような如何なる恐怖からも守ってやらねばなりません。私は滑り易いワックスを塗ってあるリノリウムの床に若犬を下してやる程、犬にとって怖いものはないと信じている。何故ならば、この年の仔犬は脚が大変デリケートなので、滑って転んだりすると容易に損傷を受け易いからです。

 彼が新しい住居に良くなじんで、貴方を好むようになってから彼に首輪をつけましょう。そして首輪をつけて二、三日したら紐をつけて庭の中を暫く連れ回って見る。彼は引き綱を嫌い、多分大変怖れるだろうが、出来るだけ静かに然も優しくしてやる事です。こんな事を数回する内に、彼を暫くの間歩かせる事が出来る程度に引き綱に馴れて来るでしょう。そうこうする内に彼を20分か30分位、野外のかなり開けた所で短時間走らせるという易しい戸外の仕事の準備が出来て来る。彼が猟を覚える迄は、この若犬一頭だけで働かせた方が良い。次第に彼の外の仕事を一時間位に延ばし、鳥の居る場所に連れてゆくようにします。この時期においては、彼を貴方の前方に行くようにさせる以外には、何んな事でも彼に指図しようとしてはいけません。この前に出させるのには、彼がどちら側にでも来た場合に向きを変えてやる事により可能である。若し彼が貴方の後に居たならば、彼が前方に来る迄待ってやる事だ。同じ場所を余り度々走らせないよう注意しなければいけません。若し新しい場所で働くのを許されたならば、更に良く狩り、目的物を探し求めるようになるでしょう。目標は茂った生け垣の列や湿地、ブッシュのある所、小さな林の一区域、或はクリークの底の方等の狭い所でも、猟鳥が住むに適した所でありさえすれば良いです。

 彼が初めて鳥の臭いをとった場合には、頭を低く下げ、歩度を落とし、尾を猛烈に振り乍ら、ゲームを感知したサインを示す。鳥臭が更に強くなって来た場合、彼はスピードを早め、多分ゲームを捕まえようとして臭いの方向に飛び込む事でしょう。鳥が翔った場合、彼は驚いて後に身を退くか或は鳥のあとを追うか何れかでしょう。これを心配する必要はありません。

 その後又何度か鳥に出会った後に、やがて彼は鳥が翔ったら追い始めるようになるでしょう。これは彼の進歩にとって非常に重要な事です。今や彼は狩りをし、ゲームを発見する以外の何物も為す事を許されないのです。これ等の経験を沢山重ねる事によって、彼は更により良いものを獲得する事が出来ます。鳥を捕まえようとして何度も失敗を重ねる内に、多分貴方が猫がネズミに忍んでゆくのを見たと同じようなやり方で、本能的にゲームに忍ぶ事を始めるでしょう。これは鳥を翔たせようとして飛び込む前に、短時間乍らポイントを始めたと言う段階です。

 このようなポイントのタイプを一般にフラッシュポイントと呼んでいる。これを彼に何回も続けさせると良い。彼を狩猟にかき立てるような経験は、彼自身が習得しなければならないものです。例えば如何にして狩るかとか、風のある日は如何に鳥をさばくか、又、走っている雉を如何に竦めさせるか、又、動いた鳥を再びポイントする場合、足臭に先んじて体臭を如何に使い分けるか等と言う事は、犬にこれを教える事は不可能です。此等の事は犬が自分自身で見出し、経験だけが彼に教える事が出来る。あなたが到達する迄、犬が充分に長くポイントしているような時は短い綱を首輪に素速くかけ、彼をポイントしている位置に引き止めるようにし給え。同時に優しく彼の名前と、グッドボーイ(ヨシ、ヨシ)と言う言葉をかけてやり、もう一方の手で彼を優しく叩き、尾を上方にさすってやります。これらのすべては、彼をポイントした位置に留めるような癖をつける為です。そしてこのようにし乍ら、彼に繰り返し「ヨシ、ヨシ、ジェーク」と言葉をかけてやる。(これから先、私はこの言葉を「優しい言葉」として使用したい)。

 やがて彼はこの優しい言葉を貴方の是認として連想するでしょう。そして彼が進歩するにつれて、自分の努力に対してあなたの是認を得るように試みるでしょう。この優しい言葉は彼が良くやったと言う事を是認し、これを彼に告げる方法なのです。彼がポイントしている時に、このように何回も行った後、ゲームの方向に彼をそっと押しやって見給え。本能的に彼はこの圧迫に抵抗し、前にも増して余計不動(スタンチネス)を示すようになる。貴方の助けによって2分か3分ポイントの位置を保たせた後に、彼に鳥を翔たせ給え。これを何度か繰り返して続ける。何時でも彼がそれを楽しんでいるように見える時にのみ野外での仕事を与えてください。若し彼に疲れの兆しが見えたり、猟への興味を失ったような時は、すぐに訓練を打ち切ってしまいなさい。

 犬を離す場合、先ず犬を手で押さえて止まらせ、優しい言葉をかけ、肩を叩き、ポイントしているようなポーズをさせる。次に普通の小さな笛を二つ短く鳴らす。同時に犬を離してやる。やがて彼は笛を聞く迄は立った儘留まり、聞くや否や弾丸のように飛び出してゆくのを覚える。この訓練の目的は笛の短い二吹きは前方に向かって走るのだという事を連想させる事である。この事は後の訓練に非常な助けとなる。幾つかの犬は足臭をベタベタと嗅ぎ回ったり、小鳥やネズミ達と騒いだりするものである。犬に出走させる合図である笛を用いる事により、上に述べたような理由で犬が留まっている場合、これを走らす事が出来ます。その結果若犬達の悪癖を完全に直す事が出来ます。

 成熟したシューティングドックが小鳥やネズミに気を引きつけられて止まったり、既に一時間も、或はもっと前に多分居ただけであろう足臭を、鼻を低く地面にこすりつけ乍ら、ベタベタ嗅ぎ回ったりするのを見る程みっともないものは無いと考えています。この笛の方法はこれらの悪癖を直し、幼い仔犬が笛の二吹きは、走る事だという連想を覚えて走り出すのに、私の知って居る限りで一番良い方法だと思います。

 指示犬の訓練と進歩は雉、鶉、グラウス、そして山シギを含めて全ての陸鳥においては本質的に同様です。或る犬はむしろ鶉犬であり、或はグラウス犬そして雉犬と言うふうに幾人かの人は考えるかも知れない。然し殆んどの場合、良い犬は全ての陸鳥を上手にさばくものです。或る犬にとって目新しい鳥に当たった場合、馴れるのに暫くの時間を要するものがあるのは確かです。この馴れとは、つまり如何に猟野を狩り、ゲームはどんな処を狩れば良いか、又、鳥の所在をつきとめた後に如何にこれをさばけば良いか等という事です。雉の居る猟野に習熟した犬は、鶉の居る所で習熟した犬とはグランドの捜索パターンが異なるものです。然し新しい猟鳥に対する1~2ケ月の経験によって、普通の犬は上手く鳥の所在をつきとめ、鳥をさばく事が可能のようです。どのゲームが犬にとって一番扱い難い……と言う事に関してはいつも大変な論争がります。

 私個人の意見としては、パートリッヂと山シギが一番難しいように思える。次に雉であり一番易しいのが鶉である。然し犬達はこれらの鳥の何れでも熟練出来るし、すべての鳥に使う事が出来ます。




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