HAMAKAZE jj: 第9章 運搬訓練

2018年12月12日水曜日

第9章 運搬訓練


 いくつかの犬は自然に運搬をし、時にそのような犬が立派な運搬犬になる事がある。しかし若し犬が運搬をするように要求された場合は、彼は強制的に訓練されなければならない事は意見の一致をみている。強制訓練とは、彼が命令により、又かりに彼が気が進まない時でも運搬をしなければならない事を意味する。殆んどの犬は若犬の頃、おだてられたりすると、自然に運ぶものです。しかし或る犬は満足すべき結果に達するには強制訓練しなくてはならない。運搬を要求しているトライアルで、競技している殆んどの犬は強制訓練を受けている。



 若しあなたが強制する事なしに、彼に運搬を教える事が出来るなら、あらゆる意味でそのようにし給え。あなたは彼の運搬しようとする自然の傾向を進歩させる事を楽しみ、結果として大変良い心を持った犬を獲得する事になる。アマチュア訓練者にとって、この仕事には必要な懲罰を含んでいる為に、犬の個性を傷つける事なしに強制訓練をする事は大変難しい事です。

 犬に運搬を教え始める際には、成可く運搬具を用いて彼と遊び乍ら始めると良い。大変都合の良い運搬具を作る簡単な方法は約60 cm四方の麻布の切れ端を出来るだけ堅く巻く事です。この巻いたものは直径約5㎝、長さが約20 cmあれば良い。針金を輪状にかけて結び、或はしっかりと縫いつける。私は何時もたくさんの雉の香料を、巻く前にその中に入れる。彼がこれをくわえたり、一緒に跳ね回ったりした後に、それを数m先に投げ給え。普通彼はそれをくわえる為に走って行きそれと遊び続ける。このゲームをたっぷり遊ばせた後、運搬具をくわえた彼を、チェックコードで貴方の方に引き寄せる。同時に「フェッチ」(持って来い)の命令語を与える。彼があなたの処に来たならば、優しく言葉をかけ、若し彼が菓子で応ずるようなら、それを与えて報いてやる。常に命令語とチェックコードを用いてこれをしばしば繰り返す。

 何時も彼に面白く仕事をさせるように注意し給え。昔し彼が少しでも興味を失ったように見られたら、彼を走らせたり、或は他の訓練に切り替えた方が良い。彼が進歩するにつれて運搬は更に複雑にしてゆく。彼が「フェッチ」の命令に良く応ずるようになったら、あなたが運搬具を投げる間、彼をシットとステイせしめ、あなたが「フェッチ」を命ずる迄ステイさせる。

 さてここで私共は強制的な方法を用いて、これと同じ段階に犬を持って来る事について論じて見よう。繰り返すが、強制訓練にはいろいろな方法があり、多分それぞれ皆有効であろう。しかし次のような方法が最も一般的な方法と思われる。この主題に入る前に、彼等のすべてが受けて来た家庭訓練において、私達が論じて来た要点を思い出して戴きたい。犬に運搬を教える事は決して優しい事ではなく、大変な期間を要するだろう。一時期に一段階づつ決して急いではならない。この期間中は立派な訓練と言われるもののすべての必要な要素、殊に忍耐、一貫性、そして繰り返しという事を銘記する事は大変重要です。

 この訓練を始めるには、あなたが今迄家庭訓練で用いて来たのと同じ場所を用い給え。何時もの家庭訓練のおきまりの命令のいくつかをざっと行い、犬を落着かせた気分にさせる。最初の数教程は犬に馴れさせる為に運搬具と遊ばせると良い。そして運搬具には予め用意した香りをつけて置く方が良い。彼が運搬具と遊び始めて間もなく、彼を手許に来させ「シット」を命ずる。犬の口を開け、運搬具を唇を噛まないように注意してやりながら口に入れてやる。

 彼の口の中に運搬具を入れたと同時に「フェッチ」の命令をかける。少しの間そのままにさせて置き、運搬具を彼から取り上げる時は「オーライ」と言い優しく話しかけ、褒めてやる。若し彼の口の中に運搬具を入れるのが難かしかったら、あなたの右手で彼の前肢を握り、左手で口の中に入れる事が出来るように彼が口を開ける迄締めつけ給え。この方法により、彼が正しく運搬具をくわえたら直ちに前肢を離してやる。彼は間もなく運搬具を口の中に入れた方が良いと学ぶだろう。

 彼の口の前に運搬具を持って行ったら、直ちにくわえるようになる迄これを続け、あなたが「オーライ」を以て受け取る迄そのままで居させる。若し彼がそれを落したら、この動作を繰り返し、あごの下を右手で軽く叩き「フェッチ」を命ずる。常にあなたの左手は方向の指示とか運搬具に用い、右手は犬を働かすのに使うようにし給え。犬がそれを充分にくわえたままでいるようになったら、直ぐ数m程歩き、運搬具を受取る為に左手を延ばし乍ら「カムイン」を命ずる。彼が運搬具を命令によってくわえ、あなたの所に持って来るようになる迄続け給え。しかる後彼を一寸離して「ヒール」を命じ運搬具を運ばせる。

 次の段階は、彼に運搬具をくわえ上げるのを馴らす事です。ここで再度強制を用いる。彼が坐った姿勢でいる前に運搬具を置く。そして彼の前に立ったまま「フェッチ」を命ずる。若し彼が命令に従うようなら良いし、そのまま次の階段に進む事が出来る。しかし若しくわえ上げないようであったら(それは最もありそうな事であるが)私達は次のように進めなくてはならない。あなたの一方の足を彼の体の上を一跨ぎし、彼の両脇に足を置いて同じ向きになる。(丁度箒をまたいで両足をひろげ、柄を手で持ったと同じように)。次にそっと彼の後肢の先にあなたのかがとを乗せ、同時に彼の首をしっかり握んで、彼の頭を運搬具の方に押してやる。あなたが彼の脚をかがとで圧迫してやると、彼は口を開けるだろう。そしたら彼の口で運搬具を一すくいにくわえ上げさせ脚を離す。これをすると同時に「フェッチ」の命を与える。彼が命令によって運搬具をくわえ上げるよう、必要なだけ多く繰り返す。それが出来たら優しい言葉を与え褒めてやる。

 繰り返すがレッスンは短く興味を持たせて行なう。この命令が完全に習得出来たら、運搬具を数m離して置き、「フェッチ」を命ずる。若し彼がそれに失敗したら運搬具の処に連れて行き、彼が近い距離でそれを持って来る事が出来る迄再度やり直す。あなたがこれを完成したら後は簡単です。しかしこの点に到達する迄が一仕事で、或る犬は運搬を会得するのが他の犬より大変早い事がある。若しあなたの犬がそれを習得するのが遅いように見えた場合でもあなたは何時も忍耐を以て、彼がそれを成し遂げる迄、上述のテクニックを繰り返さなければならない。あなたが運搬具を遠くに投げても尚運搬出来るよう次第に彼を仕込み給え。

 次の段階は今迄より草の丈が高く、運搬具を投げても、彼が直にそれを見付ける事が出来ないような場所に連れてゆく。彼は必然的にそれを見出さなくてはならない。あなたが運搬具につけた香りが、彼にとってそれを探すのに役立つだろう。そしてそれを見付ける事をフェッチと結びつける事が必要となるだろう。この場合「フェッチ・デッド・バード」(死鳥を探せ)を用いると良い。これは彼にとって新しい言葉であり、又、猟においてはあなたが最もしばしば用いる命令であろう。彼が「デッド・バード」と言う言葉から読み取らなくてはならない意味は、この近くに死鳥か半矢鳥が落ちており、それを見出す迄その場所近くを深さなくてはならないのだ……と言う事です。

 彼が運搬具を見付けたなら、あなたが出発した地点迄戻り、そこで彼から運搬具を受け取る。彼が運搬具を探すのを習得したら、例えば茂った植込みの垣の反対側等のような難しい場所に投げてやる。無理のない条件ならどんな場所でも運搬をするようになる迄これを続ける。繰返すが、あなたが「フェッチ」を命じたら必ずそれを行なわせ給え。「フェッチ」を命ずる前は常に「シット」か「ウォー」を命じ、彼が指示される迄は絶対にフェッチをしないようにする。彼が運搬を良くやったら何時も褒めてやる。彼は間もなく楽しんで運搬をし、問題が彼を運搬に馴らす事ではなくて、むしろ彼が指示される迄運搬しようとするのを押える事なのをあなたは発見するだろう。

 次の段階は彼に運搬具を置いた所を見せないで運ばせる事です。犬を坐らせ、「ステイ」(留まれ)を命ずる事から始める。そして彼の見えない所迄歩いてゆき、運搬具を落す。この際あなたの足跡がそこに真直ぐに導かないよう注意し給え。そして犬の処に帰り、彼の右側に立ち「フェッチ」を命ずる。同時にあなたの左手を運搬具の方向に振る。彼はあなたの臭いに従って運搬具の処に行くだろう。若し彼が出来なかったら、彼と一緒にそこに行き、彼から運搬具を受け取る前に最初の位置に戻って来る。これを2~3回繰り返す内に彼は会得し、喜んでこれをする筈です。これが出来るにつれて運搬を更に複雑にしてゆく事が出来る。

 今度は実際に運搬具を捜索させる事を教える。例えば鳥を翔たせるムチや手袋のような品物を、何百mも離れた森や野原に戻って、持って来るようなポインタを私はかって持った事がある。

 次に私達は運搬の方向を教えよう。これには予め香りのつけられている二つの運搬具で行なう。第一に犬をシットさせる。そして彼の数m前に立ちながらステイを命じ、一つの運搬具を右手2~3mに、今一つを左手2~3mに投げる。ほんの少しの間待った後、右の方に向き、左手をそれに振って右に投げた運搬具の「フェッチ」を命ずる。若し彼が左の方の運搬具に行こうとしたら「ウォー」を命じ右の方に行かせる。これを左の運搬具にも続いて行ない、あなたが左手で指示した方向の運搬具を取りに行く迄続ける。彼がこれを理解したならば、彼にあなたが欲する運搬具を運ばせる前に遠くに後退する。次第にこれを複雑にしてゆき、専用にした腕の方向と共に常に二つの運搬具を用いる。彼が第一の運搬具を運んだ後に第二の運搬具の方にやるようにする。やがてあなたは自分の欲するどの方向にでも彼に運搬を指示する事が出来るようになる。

 さて私達は、この習得を猟野において実際のゲームに当てはめてみよう。これは勿論私達の犬がゲームに完全にブレイキング出来る迄は出来ない。何時もの方法で彼の為にゲームを撃ち落してやり給え。彼が発射にも不動であるよう注意する。彼に近寄り優しく話しかけ、ポイントの位置に置き、次に左手で撃ち落した鳥の方向を指して「フェッチ」を命ずる。若し彼が応ずる事が出来なかったら鳥の所まで彼と一緒に行き、運搬具で今迄して来たような方法で、代りに鳥を用いながら、良い結果が得られる迄、必要なだけやり直しをする。これを野外に連れて行った時は何時も行なう。彼が良く出来たなら鳥の頭を与えて報いてやる。若し彼が鳥を仲々見付ける事が出来なかったら彼と一緒に行き「フェッチ・デッド・バード」と優しく話しかけ、彼が鳥を見付け出す事が出来る迄傍に居てやる。彼が死鳥や半矢鳥を見付けるのを会得した後は、彼が運搬した鳥を受け取る為に、常に鳥を射撃した位置に残るようにし給え。若し彼が鳥をあなたに渡すのを嫌うようだったら、普通の方法でそれに手を延し、オーライと合図し、同時にムチで彼の背部を打ち給え。彼は直に鳥を離すだろう。

 彼が鳥を非常に噛み荒すのを見付けたら、約5㎜~1㎝位突き出るように運搬具の一つに、いくつかの釘を突き通し給え。8本か10本もあれば十分だろう。彼を訓練する時、この運搬具を利用すればやがて彼はうまく改善されるだろう。私は実際に卵を運ぶように訓練した事さえある。この仕事は彼は歯(口)を柔らかくする。若しあなたがたくさんの卵を入手出来るなら、それを試みるのも良いだろう。最初の内はあなたの犬は卵をこわすが、「ノー」を用いてムチで打つと、次第に自分は悪い事をしたのだと解って来る。最初は彼の口の中に注意深く卵を置くのを手伝ってやらなくてはいけない。あとは今迄と同じように進める。

 以上、あなたが家庭訓練の根本法則に従うなら、殆んど困難ではない筈です。




0 件のコメント:

コメントを投稿

adsense

!!