HAMAKAZE jj: 第16章 シューティングドックの作出

2018年12月19日水曜日

第16章 シューティングドックの作出


 自分は鳥猟犬の作出には、あまり関心は無いのだとあなた方は考えているかもしれないが、あなたにとって大切な事は、あなたが購入した仔犬は良い系統であり、或る日多分あなたは、犬を作出しようと決心するだろうことを私は知っているのです。何れにせよ、私はこの章で鳥猟犬の作出に有益であると思われる知識を述べてみよう。実際に立派な鳥猟犬のすべての望ましい才能は遺伝的のものです。これは又、望ましくないそれについても真実です。遺伝的でない性格は環境とか人為的なものの結果です。眼の色、鼻、毛、皮膚等のような形態の特質は、骨格とか歯の形等と共に遺伝的な素質です。



 犬の性質は一部遺伝であり、一部は環境の結果です。シャイとか卑劣さ等の性質は、走法スタイルとか頭、尾の態度、歩幅、スピード、そして持久力等と同じように遺伝的な特徴です。決断力、叡智、安定性、そして勤勉等は一部か或は全部遺伝です。嗅覚能は天賦のもののように見えるけれども、この感覚を如何に、より有効に用うるかという犬の智力の結果です。同じ事がレンジについても言える。レンジが遺伝的であるとは一寸ありそうに見えないが、しかし私の経験によれば、確かにこの可能性を支持したいと思う。勿論それは広いレンジの犬を作るところの決断力、自主性そして大胆さ等のような性質の変形であるだろうが……。

 体構と自然の素質の章を読まれた後に、あなたは理想の犬の概念を心の中にしっかりと固定しなくてはならない。これがやがて目的物や標準になって来て、作出目的の為の個体の選択決定の際に用いられるようになる。ブリーダーとは先ず第一に、彼は何を目的物として作出しようとしているのか知っている人であり、第二に、その目的物を、良く準備され、長期間に渉った賢明な作出予定を用いる事により、作り出す能力のある人です。もし彼が、自分の標準として樹立したタイプの犬を年々、又何代にも渉って、一貫して作出することが出来るならば、私の定義では彼は犬の作出者と言える。

 今日米国内には、真のブリーダーが幾人かいる。いわゆるブリーダーは上のような意味で、真のブリーダーとは言えない。彼等は予め予想された何のプランも持たず、殆んどの場合明確な目的さえも持っておらない。彼等の交配には、注意深いプランが無く、血統に対する関心が薄い。彼等は唯単に自分達が良い犬を持ち、他の友人が別の犬を持っているというだけの理由で、目先の簡単なプランにとびついてゆく。彼等はその二者の交配によって、平均以上の仔犬を得られる筈だと断定する。もしそのような交配により、素晴しい犬が生れたならば、それは殆んど偶然です。もしその両者が関連の無い犬であったならば、これは所謂アウトクロス(異種交配)であり、全く関連のない牡と牝が交配された場合、その仔が両親に似る筈が無い(稀にはそのようなこともあるが)。私がよく知っている動物のすべての立派な系統は、長期間の作出プログラムの結果であり、例外なく系統繁殖か、近親繁殖の何れかを含んでいる。此処で私はこれ等の言葉の定義をしなければならないが、或はウエブスター氏にそれをして貰おう。

系  統
-- 家畜においては、その種属を構成するのに十分な特徴を判別するのとは別に、普通の系統を持っている。

系統繁殖
-- 或る望ましい特色を固定するために、その系統の中の立派な世代の間で行なわれる繁殖や交配。

近親繁殖
-- 有益な特色を保存し、或は固定し、有害なそれを排除するために近親の個体、或は系統の間で行なう繁殖や交配。


 素晴しい乳牛の繁殖において、賢明な作出プログラムの結果は非常にはっきりしている。例えば、ダンローゲン、パプスト、そしてカーネーション等の有名な系統は30代40代に渉る注意深い系統繁殖や、近親交配を説明している。その結果は勿論記録により素晴しいものです。

 記録が私達の地位を明確に立証して以来、私はこの作出の形の真価を裏切ろうとしないだろう。或るタイプのものを本当に作り出す純粋な系統を如何にして発展させるか、ということが問題です。

 先ず第一に、私達は自分達の標準を樹立しなければならない。もし或る他のブリーダーが同じような標準や目的への作出プランで出発していたら、すべての意味において、それを利用したらよい。彼の系統の作出犬を用いる事により、何年もの作出結果を表現している先発の恩恵を獲得することが出来る。もし現存している系統にあなたの標準に合致するものが見出し得ないとしたら、二つの系統を結びつけることにより、望ましい結果を得られるかもしれない。例えば仮に走法、鼻、猟欲等において優れた系統か一族を見出したが、しかしどうしても外観が気に入らないというような場合には、外観において優れた他の系統を見出さなければならず、これは少なく共、他の性能においても同じようなことです。この二者を用いて作出し、その結果の最良のものをあなたの系統の土台に用いて行く。(もしあなたが彼等を系統の土台にしようと思ったら、素晴らしい犬だけを選ぶことだ)。

 ラインブリーディングにせよインブリーディングにせよ、この両者においては良い性能も、悪い性能も強調されて現われて来る。代を重ねて作出して行く内に、望ましからぬ性能は切り捨てる事が必要であろうし、非常に素晴らしい犬だけを用いるようにしなければいけない。時には全部の仔犬や、立派な性能がある故にとっておいた犬迄も捨てることが必要になるかもしれない。もし彼等が、これ等の性能を子孫に再現させ、或は伝えることが出来ないならば、彼等は不運乍ら将来の作出に不要であるからです。

 私が今持っている系統をこの種の作出によって発展させて来るのに27年を要したが、実際の選択に際しての悲しみに、何度か苦しんだのを信じて欲しい。

 この種の作出においては、どうも隠れた劣性の因子が遺伝されるように思える。丁度一例として私は自分の系統をレキシントン・ジェイクという大変素晴らしい犬を土台にして作り上げた。彼は気品高く、堂々と生れ、何れの観点からも偉大な犬であった。彼は同時に優性の因子を持ち、彼の性能を遺伝する能力を持った父親であった。私は自分の持っている一番良い台牝を彼に交配することによって自分の作出プランを出発した。その結果生れた仔犬の中の一番良い牝が、レキシントン・ジェイクの息子を生み、ターヒーリアス・ラッキー・ストライクと命名された。    



 ラッキー・ストライクはナショナル・チャンピオンシップで3回勝利を得ている。この仔犬の中で最も素晴らしい牡のエルフュー・レッド・ドックはレキシントン・ジェイクの他の娘と交配している。仔犬の中で一番良い仔を注意深く選んでゆき、常に同じ標準を用いてゆくというプログラムを何代にも渉って続けられた。次第次第に望ましからぬ素質が現われて来る。その中で特殊なものの一つに鍵のように曲った尾がある。然もそれが非常にしばしば現われ、多くの立派な犬を捨てるのを余儀なくされた。私はこの特徴を系統から完全に取り除こうと望んだ。年が経つにつれて次第に少なくなり遂に全く姿を消した。今日では出る仔犬も、出る仔犬も美しい真直な尾を持っている。これは正に捨て去ったり、断種したりすることが必要な、望まれざる素質の一つです。

 一方においてすべての望ましい素質は加速度的に強化されて来た。今日では、私はこの系統により仔犬を作出し、交配の結果生れるものに実際に保証することが出来る。換言すれば、私の犬達は一つの型に対して正直に作出され又は系統が純粋であるということです。この作出が如何に近親を用いて為されたか、不思議に思われるだろう。この質問に対して単純な答えというものはない。それはテストと間違いの仕事です。

 或る基礎犬の頭首や個体は、他のものより遺伝への偉大な能力を持っている。或る系統は他のものより良いものを作出する。或るものは近親交配した後に捨てられ、一方他のものはうまくゆく。同系交配とか近親交配は犬を弱くするし、近親交配による犬は、或る、又は他の素質を欠いている等と言われてきている。しかし記録は全く別の事を証明している。もしそのような事が起ったとしたら、それは交配に対する浅はかな選択と、愚かな判断の結果であるに違いない。

 私がかつて育てた非常に立派な犬の一つは、その祖先に、かの有名なレキシントン・ジェイクの名を19回も数えることが出来る。彼は大胆で強く、あらゆる観点から見ても立派であった。サイズの点から言えば、彼がアメリカン・フィールド・フェザント・フチュリティーに優勝した時は30kgであった。その犬の名前はエルフュー・マーマヂュークです。もしあなたが犬を作出しようと思うならば、自分の標準を形成しない子孫を捨てるのに完全に冷酷でなくてはならない。段々と新しい血液をあなたの系統に注入する事が好都合である事を発見することだろう。あなたがこれをする場合は、一番有益だと考えた一番良い系統から送られてきた3頭か4頭の牝に、あなたの処の一番良い種牡を入種することです。そしてその各々の場合の仔犬をよく観察する。もし1頭の仔犬が素晴らしかったら、他の牝親達や、その仔犬達を捨て、素晴らしいと思った胎の仔犬の中から立派な牡と牝を採り、将来の作出犬として残す。如何なる事情があるにせよ、その犬達が唯単にあなたのスタンダードを満すのみならず、素晴らしい個体であり、あなたが望むすべての天賦の素質を持っていると確信出来る迄は、決して種牡としても台牝としても用いてはならない。結局にはあなたの作出に再び出現するであろうと思われる特色は多分第1代目には出ず、多分第2代目、或は更に3代か4代も後になって現われるものです。

 牝犬が猟野で酷評されなかった場合は、彼は良い台牝になるだろうと人々が言うのをよく聞くことがある。これは勿論誤った声明に外ならない。もし牝犬がガンシャイになったならば、彼女は全面的に台牝としてのみ使用されるだろう。猟野の仕事に不適な犬がたくさんいるということは、何と不思議な事ではないか。一番立派な犬のみが作出に用いられるべきです。これが選択交配と言われる理由です。良いものは良いものから生ずる。多分直接ではないかもしれないが終局には……。

 この点について私は訓練しようと思う仔犬や、作出系統への案内の為に、血統について論じてみようと思った。しかし私がこの概念を組織的に纏めようとし始めた時に、それは大変複雑になり、又多くの友人達をそれに巻き込むことになってしまったので、私はそれを止めようと決心した。今日一般的な、そして親しまれている系統は殆んどが立派であり、そのすべてに良い犬がいる。根本的な違いというのは、多分良い犬が出る率が、或る系統では他のものより高いということだろう。多くの血統に頭を突込まない今一つの理由は、すべての人が犬に同じような性能を求めていないからです。例えば、あなたがセタの良いグラウス犬を欲しいと思った場合には、丁度それに合致するような犬を持ったブリーダーがペンシルバニアにたくさんいる。しかしあなたがメジャーサーキット・トライアルに向く仔犬を望む場合は、それ専用に向くような血統を持った他のブリーダーが主に南部にいる。同様の事がポインタについても言える。この点についてブリーダーと論ずる場合にはむしろ、あなたが興味を持った犬種と反対の犬種のブリーダーと話しをしたほうがよい。何故かと言うと、あなたがセタを望み、その血統について見聞を広める為にセタのブリーダーの所に行ったとすると、必ずしも故意ではないにしても、彼のアドバイスは先ず疑いなく偏見を持ったものであるに違いないからです。しかし、これに反してもしポインタのブリーダーの処に行ったとすると、少なく共とも彼の近在においては、セタの系統や、ブリーダーについて詳しいだろうし、あなたにとって大変助けになる筈の客観的な意見を与えてくれることは確かだろう。

 今一つのお奨めは、猟犬の為に毎週発刊されているアメリカン・フィールド誌を勉強することです。住所は、イリノイ州シカゴ市西アダムス通り222番地、アメリカン・フィールド・パプリッシング・カンパニーです。この組織は又猟野系猟犬め血統登録を保有しており、それには殆んど総てのフィールド系指示犬が登録されている。この組織は目下ウイリアム・F・ブラウン氏により見事に運営されている。あなたはこの刊行物の中に大変な智識を見出し、楽しく読まれるに違いない。

 作出に関して最後に一つ思う事は、今日多くの成功したブリーダーの殆んどによって認められている現象であり、それはすべての作出プランに常に影響を与えている。

 この現象は或る時には「種属の歯止め」と言われているが、自然の均衡化への傾向であり、平均への持続的な傾向です。人類の場合、背の高い人は普通やはり背の高い配偶者を求め、又逆もその通りであることを知っている。もしその結果の子供が両親と同じように、或はより以上に背が高かった場合、又背の高い配偶者を求め、理論上、私達は間もなく巨人の系統を持つことになるだろう。こんな事は起らないのを私達は知っている。その理由は均衡への遺伝的の傾向があるからです。背の高い人の子供達は殆んど常に、彼等の両親の背の平均より低いだろう。同じようなことが背の低い人にもあてはまる。2人の異常に背の低い人の子供達は殆んど常に背は高くなる。

 勿論各々のルールの例外はある。この繁殖時の作用は、人や動物のすべての知られた特徴に明白に現われる。今日私達が知っている家畜の品種は、人々によって何千年もの年月を導かれてきた選択繁殖の結果なのです。これらの品種は、人間の介在なしに存在して来たと仮定した場合の本性とは異ったものです。長い間に樹立され、固定された特別の家畜を並べたててみたところで、もし家畜が人間の影響を離れて繁殖するのを許したならば、彼等は又、元の普通の祖先に戻ってしまうだろう。その品種が如何に古く、又長く時日を要したとしても、要するに時間の問題です。長い年月の間にたくさんの家畜が人間に見捨てられ、そしてそれらは生き残り、産出を続けるようにどうにかやって来た。多くの年や代を重ねた後に見附けられた時には、その特徴は事実上彼等の普通の祖先の方向に変化してしまっていた。これは犬においても真実です。もし50頭のグループのグレートデンが無人の離れ島で繁殖することを許されたならば、100年程経った終りの頃には私達が今日知っているグレートデンには、ほんの少しの類似点しかないだろう。この種属の歯止め現象が、すべての交配に存在すると仮定した場合、選択的な系統繁殖や近親繁殖は平凡な犬になろうとする傾向を阻止する唯一の理論的な方法ではないだろうか?

 もしこの憶測が妥当であるとしたら、相当の智識と又、経験なしには異系交配の余地はないということになる。インブリードやラインブリードの排斥者は、ほんの少しでもよいから、この刺激的な説を承認しなくてはいけない。この事は(完全に無意識でなくはないのを私は認めるが)疑なく多くのブリーダーに論議を沸騰させた。私達シューティングドックのブリーダーのすべてが、全く同じような目的を持っている以上、確かにどのブリーダーやどの作出理念にも、それを非難するのは私の本意ではない。

 この本の中に書き貫ぬかれてきた犬は、私達が常に作ろうと努力している犬であり、それは私達の最終の目的物です。私達は未だかつて完璧な犬、というものを作ったこともなく又、見たこともないが、率直に言って、それは決して為されない方が良い。何故ならば、追いかけることがなければ、スポーツは存在しないだろうからだ。どんな事があるにせよ、犬の作出という偉大なスポーツに従事している、或はこれから入ろうとしている人々のすべてに幸運が訪れるように祈る。

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